Share

僕の思惑と違うよね? 

Author: イコ
last update publish date: 2026-10-14 11:13:28

《side フライ・エルトール》

 領地経営を本格的に始めてから、しばらくが経った。

 軍備の増強、食糧の確保、防御策の整備――やるべきことはすべて終わった。

 戦争を止めようとは思わない。

 世界の流れは変わらないし、僕ごときがどうこうできるものではない。

 だけど、大切な人たちを守るための準備はできた。

 あとは、気楽に時が流れるのを待つだけだ。時が来たら防備を固め、嵐が過ぎるのを待てばいい。

 そんなわけで、僕はいつもの気楽な日々に戻った。やるべき仕事は人に割り振り、僕は自由時間を満喫することにした。

 公爵領を巡るという名目で、飲み歩きの旅を再開する。行く先々で、領民たちは歓迎してくれる。

「おお、公爵様! またお越しとはありがたい!」

「今日もいい酒が入ってますぜ!」

「公爵様がこうして気軽に飲みに来てくれるのは、本当にありがたいよ!」

 こんな感じで気軽に飲んで、食べて、のんびりする。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   帝都の宴

      馬車に乗って帝都の門をくぐると、どんよりとした空模様も相まって、空気の重さを肌で感じてしまう。 門番たちも一人一人の顔が険しく、穏やかな気分ではいられないことが窺える。 石造りの帝都は、エルトール公爵領とは違い、どこか堅苦しい印象を受ける城郭都市だ。かつては賑わいに満ち、商人たちの掛け声が飛び交い、街の人々が生き生きと暮らしていた場所なのだろう。 だが、今は馬車を走らせる街道を静寂が支配している。 ただの静けさではない。恐怖と戸惑いによるものだ。 新たな皇帝が即位したばかりで、まだ規則や法の整備がなされていない。そのため、どのような態度を取ればよいのか、民も戸惑っているのだ。 街を歩く人々は必要最低限の言葉しか交わさず、目を合わせることすら躊躇っている。 兵士たちは以前にも増して統制され、帝都の至る所に配置されていた。鎧を纏った兵士たちが街道を巡回し、武装した騎士団が皇城への道を警備している。「……随分と物々しい景色だね」「そうですね」「私も嫌な気分にさせられるよ」 護衛として、ノクスとレンナに同行してもらっている。 魔法を使った結界や、面倒な仕掛けを用意されていた場合には、ノクスの魔法キャンセルが役に立つ。 そして、レンナがドラゴン化すれば、空から逃げることもできる。 最低限の脱出手段は用意しておかないとね。 ブライドが皇帝となって、まだ間もないというのに、この徹底した統治は異常とも言える。いや、むしろ当然か。皇族を根絶やしにし、権力を掌握した男が次にすることは、「恐怖による支配」だ。 帝都の人々は、まだ新しい皇帝に忠誠を誓ったわけではない。だが、命令には従っている。それは恐怖の証だった。 兵士たちの目には、かつてのような気の緩みはない。貴族の姿も、街の中ではほとんど見かけなかった。彼らは皆、今日の宴へと向かっているのだろう。♢ 馬車が皇城の前で停まると、すでに大勢の貴族たちが集まっていた。 この宴には、

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   宴への招待

      帝都からの招待状が届いたのは、ブライドが新皇帝に即位してから間もない頃だった。 金箔で縁取られた封筒には、皇帝の玉璽が押されていた。 封を切ると、荘厳な筆致でこう記されていた。『新帝即位を記念し、帝国貴族たちを招いた盛大な宴を開催する』 しかし、僕はその裏に隠された真意を知っている。 これは、ただの宴ではない。 小説の中で、ブライドが自らの権力を確立するために開いた、血の饗宴。 彼の即位に不満を持つ者たち、あるいは「従うふりをしているが、真に忠誠を誓っていない者たち」をあぶり出し、見せしめとして虐殺する場となる。 この招待状を受け取った貴族たちの中には、震え上がる者もいるだろう。 出席を拒めば、即座に「反逆者」として処断される。 宴に出ても殺され、出なくても殺される。 だが、僕は迷うことなく、その招待を受け入れることにした。「フライ様、まさか本当に帝都へ向かうおつもりですか?」 エリザベートが強い眼差しで僕を見つめていた。手には、帝国から届いた招待状を握り締めている。「うん、行くよ」 僕がさらりと答えると、エリザベートの顔が曇る。「ですが、これは……あまりにも危険です!」「知っているよ」 僕の言葉に、エリザベートの表情が一瞬で凍りついた。「やはり、フライ様はお分かりなのですね? フライ様はエルトール公爵家の当主であり、セシリア様との婚姻も噂されています。つまり、ブライド皇帝からすれば、一番危険な存在はフライ様です」 彼女は情報収集能力が高い。この宴が「粛清の場」であるという噂くらいは、耳にしているのだろう。「なぜ、そのような危険な場へ向かうのですか!? フライ様が処刑されるようなことがあっては、誰がブライド皇帝を諫められるというのですか!?」「大丈夫だよ、エリザベート」 僕は微笑みながら、穏やかな声で彼女の肩を軽く叩いた。「僕が殺されるようなら

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   迅速な決断

     《side フライ・エルトール》 執務室でその報せを受けた時、僕はただ一言、「ようやくか」と呟いた。 アイリーンが緊張した面持ちで手紙を差し出してくる。その手はわずかに震えていた。情報を司る彼女にとっても、衝撃的な事件だったのだろう。「フライ様……帝国から正式な報せが届きました。ブライド皇子が帝位に就かれたそうです」 手紙に記された内容を読む前から、その結末を僕は理解していた。むしろ、これまでブライドが帝位を狙わなかったことの方が不思議なくらいだった。 ブライドが帝国を導く者として行動を起こすのは、確定事項だった。 問題は、どのような方法でそれを成し遂げるのか。僕はそれを知らない。「アイリーン、詳細を」 僕がそう言うと、彼女はためらいがちに口を開いた。「……帝都が一夜にして制圧されました。ブライド皇子は、自らの学友や帝国軍内部で味方につけた者たちを先導して、帝国の中枢を掌握。そのまま抵抗する間も与えずに皇城を陥落させました。前皇帝と、その血縁者たちはすべて……処断されたと」「……そうか」 僕は静かに目を閉じた。何の驚きもない。むしろ、それこそがブライドらしいやり方だった。 ただ、これまで帝国を支えてきた人たちのために、少しだけ黙祷を捧げた。 腐敗した帝国の血筋を一人も残さず、すべての膿を取り除いた。 それを残酷と呼ぶ者もいるだろう。だが、それこそが彼の求めた「秩序」だった。「フライ様……どうなさいますか? 帝国の次の動きは、まだ明らかになっていません。いえ、明らかにする気がないのかもしれません。新皇帝となったブライド様が、何を考えているのか……」 アイリーンの声には警戒が混じっていた。彼女は心配しているのだろう。今後の帝国の行く末を……。 帝国の新たな皇帝が、これからの未来をどのように導

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   これは革命?

     《side ブライド・スレイヤー・ハーケンス》 夜の帝都は静かだった。 だが、その静寂の裏で、帝国の命運を揺るがす嵐が確実に形を成していた。「……時は来た」 我は集まった者たちを前にして、静かに言葉を発した。 彼らは、かつて学園で共に学んだ才ある者たち。 アイク。我の剣にして、帝国最強の剣士として名を馳せる男。 エドガー。帝国技術の粋を集めたゴーレム技師。 カーミラ・ヴェルト。帝国情報局に在籍する才女であり、ユーハイム伯爵家と帝国の情報網を二分するヴェルト伯爵家の令嬢にして、今回の立役者の一人だ。 ダリウス・グレイヴ。帝国軍務軍略課に在籍する指揮官であり、軍の指揮から戦術、戦略の立案までをこなす天才と呼ばれている。 リゼット・ロワイヤル。帝国財務局の影に潜む金融の天才。今回、軍を起こすことができたのは、侯爵家の令嬢である彼女に資金を集める才覚があったからに他ならない。 そして、他にも多くの才ある者たちが我に従ってくれた。 我の覇道に共鳴した者たち。 彼らは、それぞれの分野で帝国の根幹を担う者たちとなるだろう。 そして今、彼らの力をもって、我は帝国の頂点に立つ。「帝国を滅ぼす者」ではなく、「帝国を導く者」として。「兄上は無能だ」 我は静かに口を開く。「父上はすでに病に伏し、兄上は皇帝としての資質に欠けている。そして、この帝国はもはや死に体である」 集まった者たちは、誰一人として反論しなかった。いや、むしろ、自分たちこそが帝国を変えるのだという強い意志が感じられる。「貴様らは学園で学び、力をつけ、それぞれの分野で頭角を現した。……だが、その力をこの帝国は生かしているか?」 否。「この帝国は貴様らを飼い殺しにし、腐った貴族たちは富を貪り、民を苦しめている。悪しき老害を排除し、我々の時代を作るのだ。そうしなければ、もはや帝国に未来はない」

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   決裂の始まり

     《side ブライド・スレイヤー・ハーケンス》 我は思う。人とは愚かな生き物だ。己よりも優れた者を認められない。むしろ、能力のある者たちは嫉妬され、その能力を発揮できないまま潰されてしまう。 そんな理不尽な世の中でよいのか? よいはずがない。 第一皇子である兄は無能だ。それは誰の目から見ても明らかであり、我を皇帝として迎えるのが最善の一手である。 そう進言したが、凡王である父上には理解できないようだ。 我と父上は、決定的に決裂した。 学園に通っている間は我慢した。だが、もうそれも終わる。学園から戻った我を待っていたのは、病に伏した皇帝陛下と、兄である皇太子。 そして、我。 ここに呼び出された時点で、我の立場は決まっていた。いや、もとよりこの道を進むことは決めていた。 我は、この帝国を――そして、この腐りきった王朝を変える。「ブライド……。貴様を、私は信用することができん」 皇帝陛下は、病に侵された顔をしかめながら我を見た。 痩せこけた頬、力のない目。もはや、かつての皇帝の姿はそこにはない。「そもそも、お前は学園へ送った時から危険な存在だった」「……ほう」 我は静かに微笑んだ。「何を根拠に?」「お前が集めた者たちを見ろ……アイク、エドガー、カーミラ、ダリウス、リゼット……」 皇帝陛下は深く息を吐く。「全員、現在の帝国中枢に関わる者ばかりとなった。そして、お前は彼らを学園時代から囲い込んできた」「我は、才能ある者を見極めていただけだ」「違う。お前は帝国を乗っ取るつもりだ」 その言葉に、我はわずかに笑みを深めた。父上の言葉を聞き、隣にいた兄の肩が震える。「面白いことを言う……。では、父上……」 我は一歩前に出て、皇帝のすぐ

  • お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。   僕の思惑と違うよね? 

     《side フライ・エルトール》 領地経営を本格的に始めてから、しばらくが経った。 軍備の増強、食糧の確保、防御策の整備――やるべきことはすべて終わった。 戦争を止めようとは思わない。 世界の流れは変わらないし、僕ごときがどうこうできるものではない。 だけど、大切な人たちを守るための準備はできた。 あとは、気楽に時が流れるのを待つだけだ。時が来たら防備を固め、嵐が過ぎるのを待てばいい。 そんなわけで、僕はいつもの気楽な日々に戻った。やるべき仕事は人に割り振り、僕は自由時間を満喫することにした。 公爵領を巡るという名目で、飲み歩きの旅を再開する。行く先々で、領民たちは歓迎してくれる。「おお、公爵様! またお越しとはありがたい!」「今日もいい酒が入ってますぜ!」「公爵様がこうして気軽に飲みに来てくれるのは、本当にありがたいよ!」 こんな感じで気軽に飲んで、食べて、のんびりする。 ……ただ、一つだけ気になることがあった。それは、領民たちの視線だ。 歓迎はしてくれるのだけれど、どこか決意を秘めた瞳で僕を見ているのだ。(なんだろう、この感じ……?) いつもなら気楽に声をかけてくれる人たちが、妙に敬意を込めた態度を取ってくる。「公爵様……俺たちは、ついていきますぜ!」「何が起きても、公爵様についていく覚悟はできております!」「エルトールの民は、公爵様と共にあります!」(……うん、なんかとんでもない勘違いをされてる気がするぞ) どうやら領民たちは、僕が何かを仕掛けると思っているらしい。(いやいや、そんな面倒くさいこと考えてないからね?) とはいえ、訂正するのも面倒だし、放っておこう。 ♢ そんなある日、エリザベートが真剣な顔で僕のもとを訪れた。「フライ様

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status